第33章 風邪
「………実弥は私のせいで結婚もできなければ父親にもなれないんです…」
私は机に突っ伏した。じわっと涙が目にたまる。
「…そうですね」
春風さんがトントン、と私の肩を優しく叩く。
「それでも一緒にいようだなんて言うのですから、よほどあなたを好いているのでしょう。」
「…え?」
「言ったでしょう。もし…もし私があなたと結婚するなら、家族のことを考えると。」
彼は真っ直ぐな目で私を見た。
「たかだか親戚の私“なんぞ”が考えるのですから、彼はとっくに考えたのでは…と、思うわけです。」
「………。」
「あなたを家族から助けた彼なら、尚更です。」
「それは…憶測に過ぎないじゃないですか。」
「……あなたは実弥くんの何を見て来たのです?」
春風さんがぎゅむっと私の頬を遠慮なくつまむ。
「い!いひゃ!いひゃいれす!!」
「よろしいですか、結婚のプロポーズってけっこう勇気がいるのですよ。彼は全て理解していたと、信じるのがあなたの役目では?というか先程から、実弥くんが、家族が、体のことがって言ってますけどねぇ……。」
彼はパッと手を離した。
「あなたはどうなんです?結婚について、不安を感じる以外に思うことはないのですか。」
「そ、それは……。」
私は痛む頬をさすりながら答えた。
「……不安要素が大きくて、そんなの考える余裕が…。」
ぎろり、と睨まれた。
いやだこの人すごく怖い。
「………結婚…したい、です…実弥と…夫婦?っていうのになったら……すごく…幸せになれそう」
春風さんがにこぉっと笑う。
あ、なんか嫌な予感が…。
「はい、言質ゲットです」
ことりとテーブルの上にスマホを置く。録音アプリが起動され、何かの音声が保存されていた。
それを再生すると…
『結婚…したい、です…実弥と「わあああああ!!!もう嫌だ怖いこの人!!!」』
「失礼な。実弥くんに送りつけたりはしませんから。多分。」
「そこは絶対って言ってくださいよ!?」
春風さんがゲラゲラと笑う。
あぁ、何かしつこく聞いてくるなと思ったら!!!