第33章 風邪
私はため息をついて紅茶を見下ろした。まだ湯気がたっていて、熱そうで飲む気がしない。
「…体のこと…子供を産めないことを言えば、実弥は諦めると信じていました。」
「けれど、諦めなかった…。」
「……結婚の話は二度としないと言って、今の関係のままでいることを彼は望みました。」
春風さんはケーキを一口頬張る。
…私は何だか食欲がなくなってきた。最悪春風さんにあげよう。元々は彼が買ったものだし。
「でも不思議です。あなた達ずっと…えー、確か中学生の時から付き合っているんですよね。なぜ結婚のことに関してその土壇場でさんは慌てたのですか?」
「……結婚なんて、中学生や高校生の私には遠い話に思えたんです!でも、大学生になって、実弥がまだ私と一緒にいて、成人して…その時から少し不安になりました。そういえば、いつ私達には“終わり”がくるのだろうって。」
終わり、とは何だろう。付き合った男女の行き先なんて結婚だろうな。
実弥が結婚願望があるかないかなんて聞きにくいし。
でも、もし仮にこのまま付き合い続けたら、実弥の結婚相手って…。
「たくさん考えました。私は考えるに考えて、家のことがとても不安でした。もちろん、体のことも相当の不安でした。けれど、実弥も誰も結婚の話なんてしていないんです。そう、早とちりでした。その段階では…まだ早とちりだったんです。」
私はため息をついた。
先程から何に対してため息をついているんだろう。考えのまとまらない私に対してだろうか。
「けど、社会人になると同時に実弥が同棲したいって言い出して、いよいよまずいことに気づいたんです…。」
「そういえば愚痴を言ってましたね。同棲したくないと聞いていたのに、いつの間にか始めていたので驚きました。」
「………一年間だけの約束だったんです、けど…。全てにおいて早とちりなわけだし、実弥がそういうこと考えている素振りもなかったものですから…。」
私はまたため息をついた。
「ははは、なるほど。プロポーズされている前から結婚のことばかり気にしていることがバカバカしく思えたんですね。」
「なんて思った私が一番バカッ!!!」
「情緒を取り戻してください」
そう言われ、私は再びため息をついてしまった。