第33章 風邪
春風さんはずっと車椅子で生活をしていた。
前世で鬼に足を食われた記憶から、ずっと歩けずにいた。けれどカウンセリングやリハビリをするようになり、今ではちゃんと歩けるようになった。
「やっとこの体になって、あなたの世話を存分にできると思ったのにー…」
歩けるようになってからというもの、元々の性格もあってか度を越えた世話好き人間になったのである。
「何を元気になってるんですか」
「いや、寝たら元気になりました…」
二晩ほど泊まらせてもらって、休んでいたらすっかり治った。でもまだ病み上がりなのでここにいるが。
バカみたいに広いリビングのテーブルで、向かい合ってお茶の時間。美味しいお菓子とケーキが目の前に用意され、とってもしあわせ。
「まあそれでもゆっくりしていけばよろしいかと。実弥くんのとのことでお悩みがあるようですしねぇ。」
「えっ」
「あははっ、あはあはは」
春風さんはよく、まるで心を見たように言い当てる。これから起こることの推測、たまに予知までやってのける。
私の第六感といい、何か血筋にあるのだろうか…。
「変な笑いかたしないでください…」
「いえいえ、だいたい予想はつきます」
「ついちゃうんだ」
春風さんはにっこりと笑った。
「何やら、停滞したままのようですね。」
ただ頭が良い人で、色んな考えから答えを導きだしているのだと思っていた。
けれど、実は私の第六感と同じく根拠や理由はなく、本当になぜかわかる…それだけのようだ。
「停滞…というか……“妥協”…ですね」
「ほう?」
「前に進むも後ろに進むもできないから同じ場所にいる…んだと、思います。」
「なるほど」
春風さんが頷く。
「…彼からのプロポーズを…断ってしまって」
その瞬間、ガチャンと大きな音がした。