第33章 風邪
春風さんの家に行って荷物を下ろしてから、病院へ向かう。
疲れから来る風邪…らしい。
「働きすぎなんですよ、あなた」
春風さんが運転しながら後部座席で寝転ぶ私に言う。
「在宅ワークって、24時間いつでも仕事できちゃいますからね。さんのことですから、仕事ばかりしていたのでしょう。」
「…仕事…嫌いな訳じゃないし…楽しいから」
「考えてもみなさい。朝八時に出社して、六時が定時の会社があるにしても十時間労働です。それに、十時間ずっと働いているわけでもなく昼休みやタバコ休憩なんてのも挟みながら働くんです。もちろん残業などもあるでしょうけど、休憩はとっていますよ。それに、帰ったら一切仕事はしないんです。」
春風さんがペラペラと饒舌に話す。
「時間をきっちり決めて仕事をなさい。闇雲にやってもそのように体調を崩してしまうのですよ。」
「……でも」
「でもではありません。仕事の依頼はしばらく断りなさい、いいね。」
「はい」
まあこんな状況だと仕事もできないか。
春風さんの家に到着した。
彼は今となっては縁の切れた母方の従兄弟である。
母とは縁が切れても氷雨家の人達は仲良くしてくれて、よく世話を焼いてくれている。実家にいる父方のおじいちゃんとおばあちゃんには内緒だけど。
春風さんは半分在宅ワーク、半分出社するといった風に毎日会社に行く人ではない。なので今日も私を引き取ってくれた。
春風さんは家事全般できてしまうし、顔も綺麗だしさぞかしおもてになる様子だけれど、そんなことに興味はないといった風である。
もったいない。何て言うのはお節介だ。
春風さんの実家は広くて大きい豪邸だ。私は客間を貸してもらっているが、まだまだ部屋はあるようで、困らないから気楽に休んでいくと良いと言われた。
彼の家族は多忙でなかなか家には帰ってこず、長年ほぼ独り暮らしのため誰かが側にいるのが嬉しいのだと言う。