第31章 風柱
次の日、何だかつやつやした顔で実弥が起きてきた。まあ言ってしまえばご機嫌なわけで。
……おはぎにキレるほどだったもんねぇ。良かった、昨日はおはぎが寝てて。
それに今日は土曜日だし、お休みの日っていうのもあるんだろうな。
「匡近と会うことになったから午後には出掛ける。」
あ、それで機嫌がいいのね。
「あー、じゃあ仕事する。」
「…お前もたまには外出たらどうだ?」
「ええ、一人で?」
「友達いねえのかよ。」
「いるわバカ」
休日にいきなり連絡を取って会ってくれる人なんて…
人なんて
「………よし、私も出掛ける。」
「おお、そうしろそうしろ。」
少し遠いところに行かなくてはならなかった。駅で待ち合わせをして、よさげなカフェがあったのでそこに入った。いつでも会えるというのは、自営であり在宅ワークという共通点があるからだろうか。
戦友、というのはいつまでたっても良き清き関係である。
幾度となくその背中を守り、守られ、共に戦場を駆け巡った。
「いやぁ、一年ぶりとかかなぁ。」
「そうだね。」
木谷優鈴。
私のたった一人の同期だった男だ。
ある日突然眠りから覚めなくなると言う原因不明の病により何年間も眠り続け、私が高校に入学する頃にとてつもない寝坊を経て起きた。
書道に力をいれていたこともあり、今は書道家として活躍している。その界隈では有名なようで、自慢の友達。
どうしてそんなに眠っていたのと、一度聞いたことがある。前世と変わらぬ、ふにゃっとした柔らかな笑顔で言った。
『過去とお話ししてたんだぁ。』
冨岡くんが過去に帰ったのか、とぼやいていたことを思い出した。夢の中で、過去と向き合っていたらしい。その結果目覚めた。今を生きたいからと、過去と決別して。
「急に呼ぶからビビった。そんで、何だっけ?君の彼氏のお友達?」
「そう。優鈴は覚えてない?」
「蝶屋敷で右手治療した時でしょ。覚えてるけどさ。木枯らし颪が不発だったなんて恥ずかしい記憶、最悪だよ。」
バッチリ粂野さんを覚えているらしかった。いや、そのコガラシオロシがどうとかは知らないけど。