第31章 風柱
やっと寝た。
少し上の方から聞こえる実弥の寝息に心底ホッとした。
(………行冥、か)
秘密の全てを話した後、個人的に話をしに行ったことがある。
一応、前世ではそういう関係だったのだから、謝ろうとした。
『良い。消えた死体と遺品のことが気がかりだった。鬼に食われたのではあるまいかと思っていた。そうではないと知って、安心した。』
そう言って、私を責めることはなかった。
『いつも私の遠いところにいた気がする。何よりも親しみと愛情を持って接していたが、ずっとそう思っていた。』
彼は、微笑んだ。
『だが、ずっと鬼殺隊に寄り添っていた。私はそれがわかった。とても嬉しく思う。』
いい人だ。だから私は恋をして、好きになった。
けれど、それは前世の話。今の私ではない。彼は、今でも前世の私に恋をしていると言うけれど。それは決して、今の私ではない。
(……思い出させないでよ)
でも、何も覚えていないわけではない。だから思い出したくなかった。辛くなってしまうから。
敢えて言わなかったのに。それは実弥も同じことだ。きっと粂野さんを思い出したくなくて言わなかったんだろう。
それに、誰とも共有したくない、胸に秘めておきたい思い出もある。
(………なんか落ち着かない)
私はむくりと起き上がった。
あー、頭がボーッとする。
「実弥くん、私は自分の部屋で寝ますからね」
よし。言ってやった。これで次の日『何で自分の部屋に行くこと言わねえんだァ』って怒られても大丈夫。
……それによく寝てるなぁ。最近何かとお疲れみたいだし、一人で寝てもらって良いんじゃないかな。うん。