第30章 旧風柱の記憶ー未来の風ー
右手に巻かれた包帯と、つんとする湿布のにおい。
僕は全部嫌いだ。
胡蝶さんが稽古場で治療してくれた。
「僕にも兄弟子、いたよ」
その間に暇だったので話した。
「やたらとかまってくるお節介野郎でね。僕そういう奴一番嫌いなんだけど。」
思い出すと、今でも笑える。
世話好きの、変わった奴だった。
「兄貴風吹かせてくる奴ってのは、不器用で優しくて、ありがたいかありがたくないかわかんないよねぇ。」
強面に言うと、不機嫌そうに黙り込んだ。当の兄弟子はにやにや笑ってそれを見ていた。
「……強くなりなよ」
そう言葉を投げかけた。
「柱…って、けっこう仲悪いんだよね。さっきのにこにこしてたおねーさんは同期だから仲良いんだけど。でもま、どんな奴でも死んじゃったらさぁ。」
チラリと二人を盗み見た。
「案外、涙って出てくるからね。」
そう言うと、二人は顔を見合わせた。
「死なないでくれーなんて、神様じゃないんだし言うだけ無駄だし、死にたくなくて死なれたくないなら強くなるしかないんだよね。」
ぶつぶつと話し続ける。胡蝶さんまで僕の話を聞いていた。
「強くなって、後悔しないように鬼殺隊やるんだね。」
治療が終わり、喋りすぎたなと思って僕は立ち上がった。
「じゃあ、あんたは後悔したことあんのか。」
ふと、強面に聞かれた。兄弟子と胡蝶さんが面食らっている。
「あるよ。」
振り向いて、ボソッと言った。