第30章 旧風柱の記憶ー未来の風ー
僕が死んだ日は、穏やかな風が吹いていた。
大きな背中に見えたけれど、今はその背中が小さく見える。
遠くに兄弟子が見えた。
『優鈴、何てことをしたんだ。』
兄弟子が涙を流しながら僕を責めた。
ああ、怒っているのか。首をつって死んだこと。
『僕は強くなったよ。そのことを認めてはくれないの。』
『うるさい、お前みたいな弟弟子は知らない。はやく帰れ。こっちに来ないでくれ。』
『ここにもいられないなら、僕はどこに行けば良いの。あんなに僕にお節介をしておきながら、今更つっぱねるんだ。』
兄弟子は怒っていた。ポロポロ涙を流していた。
『生きてて欲しいからに決まってるだろ!!!』
『………』
『お前は生きられたんだ、それなのに、優鈴…!!』
僕はソッと兄弟子に近づいた。
『僕を庇って死んだこと、後悔してる?』
兄弟子は鬼から僕を庇って死んだ。変に兄貴風を吹かせるからそうなるんだ。そう思っていた。
そう、思うようにした。
死んで悲しむくらいなら生きているうちから関わらなければ良い。近寄らないでくれ。誰も僕に近寄らないで。仲良くなればなるほどお別れが辛いだろう苦しいだろう。ああ、どうか誰も僕に近寄らないで。
『するわけないだろ』
でも。
近寄るなって言っても、近寄る馬鹿がいて。
兄弟子と、それと、たった一人の同期
『良かった』
僕はにこりと笑った。
『これで、眠れる』
『優鈴』
『ねえ、手合わせでもする?』
にこりと笑いかけた。
すると、兄弟子は涙をふいて、頷いた。
『もう勝てないだろうなぁ。』
『勝てるでしょ。』
僕は少し振り返った。
新たな風柱が今ごろ、あちらでは誕生しているだろう。
……上手くやりなよ、
君は情が深くていけない。
どんなに後ろ髪が引かれる思いでも、もうそちらへは行けない。
僕はしっかりと、昔の修行時代のように兄弟子の後ろをついていった。