第4章 凹凸
マンネリ化とか倦怠期とか、そんな簡単な言葉ですめば良いけど。
多分、“あの夜”から。
どうしても、あの夜のことが実弥に申し訳なくてたまらない。
今から一年前とか、かな。実弥は悪くない。私が申し訳ないことをした。会わせる顔がないというか、本当に…。
ワンピースを着た私が鏡に写る。
ひどく疲れた顔で。
ああ惨めだ。泣きたい。
グッとこらえて、試着室のカーテンを開けた。椅子に座ってスマホを見ていた実弥が顔を上げた。
「………」
実弥はじっと見たあと、ふっと笑った。
「良いじゃねえか」
「……そう、かな~…」
「もうそれ着たままでいたら良いんじゃねえか?」
「え、で、でも」
先ほどこのワンピースの値段を見たとき、私は目玉が飛び出るかと思った。どれだけ高くても三千円ほどの服しか買わない私が買うものではない。
「可愛いと思うんだけどなぁ。」
実弥がにっこりと笑う。
「~~ッ!!!その顔わかっててやってるでしょ!」
「ああ?何が?」
「あーもう知らない!!」
私はシャッとカーテンを閉めた。
あの笑顔で言われると、どうも私は勝てない。何かむずがゆくなる。得たいの知れないものがぞわぞわくる。
店員さんに値札を切ってもらって、試着室から出ると実弥がいない。
気配でわかる。レジにいた。
「え、出してくれたの?」
「服にこんなにお金出せないとか考えてたんだろ。」
「うっわ~…エスパー?」
「お前に言われたくねえんだよ。」
実弥がぎろりとにらむ。おお怖い。
また荷物が増えてしまった。しかしそれらをひょいと持つあたり、優しいんだなと思った。