第24章 青碧蒼
次の日になっても実弥には言わなかったし、相手方にも連絡しなかった。服は捨てた
体は何ともないのだから、別にかまわない。
昨日買った本を読む。仕事をしなくてはいけないのはわかっているけれど、折角なので読みたかった。
「………面白いな」
挿し絵の段階ではどんな本か全く知らなかったけど、いざ読むとはまってしまった。
おはぎはソファーベットに寝転んで本を読む私のお腹の上に乗って寝ている。
猫ってのは何でこんなにすり寄ってくるんだよう。可愛い。好き。
本の内容はザッツ感動物といった物語だった。主人公は死んでしまった友人に対して悲しんだり、思いを馳せたりしていた。
私はピタリと手を止めた。
主人公が死んだ友人の父親と話す場面。
『いよいよお葬式だから、棺の中に入れたいものがあったら言ってね。』
主人公はそんなものはないと言う。
けれど、父親は返した。
『棺の中に入れるものは自己満足で良いんだ。二度と会えない相手に対して、生きている我々は所詮一方通行だからね。』
そこで私の描いた絵があった。カラーで依頼されていたから色を塗った。
明るいイメージで笑った女の子を描いてくださいと言われたから、素直にそれを描いた。どうやらそれが死んだ友人らしい。
何だか残酷に思えた。私は素晴らしく楽しい場面を想像した。けれど、死者に思いを寄せる場面だった。
本を閉じた。
表紙は、空の下で喪服を着た主人公が何やら紙切れを持って立ち尽くすものだった。
喪服にさえ空の青が写りこむほど青を使い込んだ。
けれど、どの青色も思った色にはならない。
私の心臓を掴んで離さなかったあの青色にはならない。
「…………」
本はクライマックスで主人公がもういない友人へ手紙を出し、宛先不明で手元に戻ってくるというシーンで終わった。
手紙の内容は、あれが楽しかっただのここが嫌いだっただの、下らないものだった。
けれど、送り出した本人には重要なことで、どうしても亡者に伝えたかったことなのだろう。
私は本を閉じた。
青い表紙が再び目に入ったとき、私は泣いた。
本の内容に感動したのもある。けれど、それ以上に無一郎くんのことが思い出されて、泣いてしまった。