【鬼滅の刃】モブ隊員メモリー【オリジナルストーリー】
第2章 憂き目
幾度も縺れそうになる足許を腹立たしく思いながらやっとの事で一軒の家に辿り着いた私は、固く閉ざされている戸を強く叩く。騒がしい足音が聴こえてきたかと思えば、ようやっと住人らしき人が現れ、血塗れでへたり込んでいる私を見て驚愕の表情を浮かべる。そして何とか乱れた語気では有るが今に至るまでの全てを語ると、家の人は私を部屋の中に招き入れ、温かい御茶を出してくれて、そして「大変だったね」「怖かったね」と肩を叩いてくれて…。少々憐れむ様な、はたまた見下す様な視線を何度も向けられたのが気になったけれど、その時はそんな事も気にせずに好意に純粋に甘えていられた。
その家の人達は、最初はとても見ず知らずの他人で有る私に対して優しかった。
何日も家に泊めてくれたし、色んな持て成しを何も対価を差し出せない私に対してしてくれた。だけれど日数をその家で過ごしていく内に、ずっと家に居る私を邪魔だと思う様になったのか、家中で陰口をしょっちゅう叩くようになった。「本当の家族でも何でもない癖に」「本来ならお前みたいな薄汚い餓鬼が入れる場所じゃない」と。特に暴力をされたりする訳ではなかったから、恵まれている方だったのかもしれないけれど、子供心に辛かったのを覚えている。
軈てずっと勝手に噂を立てられ侮辱される事に耐え切れず、私は荷物をまとめて家から出ていく事にした。女中さんに家を出ていって村に行くと言った時の、あの喜色満面の笑みはきっと一生忘れられないだろう。それ程までにあの表情は脳裏に強く焼き付き、私の心に未だ深い傷を遺している。
家を飛び出して村に行ってからは、探しても探しても女子供に出来る仕事はなかなか見つからず物乞いをして生きる事になった。土下座でも同情を買う為には何でもして、手に持つ椀に御布施を投げ込んで貰うのだ。然し貰える分では生きる為に必要な量には全然届かない。貰えるだけまし、だと思って日々を過ごしていたが、思い込みで誤魔化せるのにだって限界が有る。それに最初は物珍しさからか同情心からか多少は貰えていたのだが、段々と御布施をくれる人は少なくなっていき、貰いに行こうと人に近付けば殴られたり蹴られたりをされる様になっていった。
一発殴られる度に、痛みが脳内で反芻して甦ってくる。
この瞬間が堪らなく苦しくて、身体にのし掛かってくる様に重かった。
