【鬼滅の刃】モブ隊員メモリー【オリジナルストーリー】
第3章 綴命の出会い
手を引かれ暫し歩き続け、連れていかれた先は山の麓にある大きなお屋敷だった。変に飾り気はないが、自然な美しさを保っている外観の、立派な。其はこの屋敷を見た最初に「こんな所に住めるのなんて貴族様か天上人くらいだろう」と思ってしまう程の。そうして私が屋敷を見つめて立ち竦んだまま五分が経過し、その人に「どうした、早く中に入らんか」と急かされる進みとなった。気後れし震える足を何とか動かしながら扉を開けて貰い中にへと入れば、其処に広がっていたのは一面の、道場と思わしき風景であった。遠くに見える掛軸には達筆と言って差し支えのない美しい文字で威風堂々と書かれており、矢鱈とだだっ広い空間に思わず眩暈が走る。
「この場所は気に入ったか?」
「…ええ、気に入りました、よ」
本音を言うならばこれから住む場所に連れていかれるのかと思ったら急に道場に連れてこられたので、頭が状況に追い付けず混乱しているのだが…きっと何か此処へ連れてきた理由が有るのだろう、そう思った私は敢えて其を口に出さないままでいた。
この人を失望させたり意に沿わない事をしたら、私は終りだと完全に思い込んでいたのかもしれない。真相は依然闇の中で、自分の心の在処など意外と判らない物だ。
そんな事を私が延々と思案しているうちその人は少しだけ俯いてから「すまない、君にまだ詳しい説明が出来ていないが用事がある。私は少し出掛けるから…そうだな、お腹が空いているだろう?」と呟き、唐突にしゃがんだかと思えば床をまさぐり、何かの取っ掛かりを掴むと其を思い切り引っ張った。すると床はパカッと軽快な音を立て開き、その奥には密閉処理のなされた煎餅の入った袋が鎮座していた。そして其を掴み上げ取り出すとその人は私へ煎餅袋を寄越した。
「非常食用の煎餅だ、これで幾分かはお腹を満たせるか?…あァでも、そういえば君は今までご飯を満足に食べれていないのだったな。いきなり沢山食べると胃を壊してしまうかもしれないから、ゆっくりよく噛んで食べるんだぞ」
私は其を渡された瞬間、不躾で下品だとは判っていたものの溢れてくる食欲を止められずに一気に二三枚パクついてしまった。適度に醤油の味が染みていて歯応えもよく、端的に言えば、美味しい。決して高級な物ではないのだろうが、素朴で優しい味がする。私は確りと煎餅を噛み砕いてから咀嚼した。
