第2章 欲求不満な女
気がつけば1時間くらい経って、私もそろそろ眠くなってきた。時計の針は11時。
リビングの明かりを消して寝室へと足を踏み入れる。カーテンの隙間から差し込む月明かりに、有栖川さんの寝顔が照らされている。その寝顔は男の人だけど、整っていて綺麗に見えた。
本当にこの人は有栖川帝統なのか、テレビでしか観たことのない人なのか、ちょっとだけ、触れて確認してみたくなる。
「ね、寝てるから、大丈夫だよね」
そっと有栖川さんの傍に屈み、人差し指を伸ばしてちょん、と頬に触れた。
「本物だ」
有栖川さんは全然起きる気配がない。私はもう少し触れてみたくなり、今度は大胆に唇をそっとなぞってみた。
「やっぱり、本物だ」
するとたちまちドキドキして、体の芯が疼く。ちょっと待って、私、有栖川さんの寝顔見て、欲情してる……?
いやいや、いくら彼氏と別れたからって、出会ったばかりの人にそんな感情を抱くなんてどうかしてる。でも、あの屈託のない笑顔を思い出すと、心の奥がざわざわとした。
「寝よう、もう」
変な気分になりかけたところで、私が有栖川さんから手を離そうとすると、ばっと布団の中から手が伸びてきて、私の手首を掴んだ。
「わあっ!!」
驚いて大きな声を上げると、有栖川さんは目を開けて私を見た。
「俺の顔に触れて、どうしたんだよ」
その瞳は、さっきのような屈託のない笑顔とは違って、真剣な眼差しだった。
「いや、あの、すみません。有栖川さんが、本物なのかなって思って、ちょっと確かめてみたくなりました。ごめんなさいっ」
頭を下げて手を離そうとしたけれど、離してくれなかった。