第3章 素寒貧な男の手懐け方
「スッてない。今日は大勝ちした」
「じゃあなんでうちに来たの?」
そう言うと、帝統はポケットから彼の髪と同じ色のリングケースを取り出した。
「これをお前に渡したくて」
差し出されたリングケースを受け取り、中を空けると、そこには指輪が入っていた。
「……!これって」
帝統は恥ずかしそうに目をふいと逸らしながら、ポケットに手を突っ込んだ。
「いや、俺いつも世話になってばっかだしよ、たまには何かプレゼントしたくなって」
胸の中に、愛しいと思う気持ちが溢れるほどこみ上げてきて、私は思わず彼に抱き付いた。
「ありがと。嬉しい」
「おい、ここ外だぞッ」
彼は照れくさそうにしながらも、私の背中に腕を回す。
「じゃあ、今日は特別にうちに入っていいよ」
私が後ずさると、彼は家に入って来て、がちゃん、という扉が閉まる音が聞こえる。
「なあ、美月さん」
「ん?」
体を離すと、唇が重なった。触れるだけの優しいキスだ。
「俺、ずっとここに居ても良いか?」
はじめて邂逅した時のような、何かにすがりつく子犬のような瞳。ああ、ずるいなあ。この瞳に見つめられると、断れない。
「お金は貸さないからね」
「分かってる。ただ俺は美月さんと居たいだけなんだ」
――そんな風に言われたら、嬉しいに決まってる。
「……いいよ。うちに居ても」
そう言うと帝統は私の膝と背中をぐいっと抱き上げるようにして家に上がった。履いたサンダルが脱げて床に落ちる。
「ちょっと、何するの」
「美月さんが欲しい」
子犬のような瞳は、欲情に濡れた一人の男の瞳に変わった。
私の体の奥がきゅん、と疼いた。今日も、長い夜になりそうだ。
Fin