第1章 雨の中で拾った男
「そうだ、お酒飲みませんか。元彼がお酒好きで、沢山買ってくるので冷蔵庫に余っちゃって。私一人じゃ飲みきれないんです」
「酒とかサイコーだな、遠慮なくいただきます」
「種類はビールばっかりなんですけど、良いですか?」
有栖川さんが頷くと、私は冷蔵庫からビールを何本か取り出して目の前に置いた。
「いただきます」
ぷしゅっ、という小気味よい音と共に、有栖川さんがビールの蓋を開けると、ぐいっと豪快に飲み干した。
「はあーっ、うめえ」
「良かった」
私は残りのお弁当をさっと食べ、ペットボトルのお茶を飲むと席を立った。
「あれ、美月さんはいらないのか?」
「私はあまりビールが好きじゃないんです」
「そっか、そりゃ残念だな」
私はそそくさとお皿と空になったお弁当の容器を片付け、寝室にあるベッドの横にお泊まり用の簡易的な布団を敷く。たまに友だちや家族が遊びに来た用に置いてあるのだ。
「私はお風呂に入ってきますから、もし眠たかったら先に寝てて下さい。歯ブラシは使い捨てのが洗面所にありますから」
「ああ、分かった」
私は濡れたストッキングを早く何とかしたくて、タンスから着替えを取り出すと有栖川さんの後ろをさっと通って洗面所へ向かう。
浴室の扉を開けると、蒸気がまだ漂っていて、元彼が泊まりにきたことをふいに思い出す。彼氏も、よく先にシャワー浴びてたっけ。