第1章 雨の中で拾った男
「私は名村美月です」
「じゃあ、美月さんって呼ばせてもらうぜ」
さん付けで、ふと有栖川さんの年齢を思い浮かべる。確か、ディビジョンバトルの発表では20歳位だった気がする。私は20代半ばだから、彼は私より年下なんだ。
「美月さんはメシ食わねえの?」
「私はお弁当を食べますから、気にしないで下さい」
年下だからといっていきなりタメ口も気が引けて、そのまま敬語で接することにした。
玄関の傍に放置されたコンビニのビニール袋から冷めたお弁当を取り出すと、電子レンジにいれて温める。
「俺には手作りで、美月さんはお弁当か。何だかしてもらってばっかだな。俺にも何か出来ることあったら言ってくれよ」
「ありがとうございます。とりあえず今日は良いですよ。有栖川さんみたいな有名な人と関わることが出来て、私も光栄ですから」
電子レンジから温めたお弁当を取り出すと、野菜炒めが盛ってあったはずの皿はすでに空っぽになっていた。目の前に座り、お弁当の蓋を開けると、有栖川さんはまだお腹が空いているのか、どこか物欲しそうな瞳で見つめている。
「……食べますか」
「いやいやいや、いらねえ。それは美月さんのだから」
でも目は嘘をつかない。この人、本当にギャンブラー?
私はお箸でウインナーとコロッケをつまむと、お皿にちょこんと置いた。
「じゃあ、これどうぞ」
「ありがとう、美月さん……ならぬ、女神様」
先にコロッケを箸でつまむと、美味しそうに平らげる。
私もお弁当を食べ、空腹を満たす。今頃失恋で鬱々とした気分になっているはずだったのに、有栖川さんのおかげで私はだいぶ気が紛れていた。