第1章 雨の中で拾った男
「野菜炒めならありますよ」
「食べます」
返事が即答で帰ってきた。可笑しくてふふっと吹き出してしまう。
「じゃあ、そこに座って待ってて下さい」
「分かった」
有栖川さんがおとなしくダイニングテーブルの椅子に腰掛けると、私はフライパンを動かすのを再開した。
「俺が着てる服、どう考えても男物だよな。つーことは、彼氏が居るんじゃねえのか?」
「彼氏は居ません。昨日、フラれたので」
有栖川さんは、まずいことを聞いてしまったと思ったのか、少しの間黙った。
「……そうか、わりいな。でもそのおかげで俺は助かったぜ。ありがとよ」
励ましなのかどうか分からないフォローだけれど、そう言われると素直に嬉しい。
「俺が着てた服はどこ行ったんだ?」
「ああ、明日は晴れだし、土曜日で会社も休みなので、洗濯して干そうかと……ご迷惑でしたか?」
「なっ、そんなことまでしてくれるのか!こんな優しい女性に出会ったのはじめてだ」
ふいと後ろを振り向くと、有栖川さんは感激したように目を輝かせて頷いていた。ちょうど野菜炒めが出来あがり、私はダイニングテーブルの上にお皿と、お箸を置く。
「うわー、めちゃくちゃ美味そう。いただきますっ」
手を合わせたかと思えば、がっつくように野菜炒めをかき込む。この人、よっぽどお腹が空いてたんだな。それにしても、何でもストレートに表現するから分かりやすい。
ある程度食べ物を咀嚼して飲み込んだところで、有栖川さんは、あ、という声を出した。
「そういや、名前聞いてなかったな」