第1章 雨の中で拾った男
「使って下さい。あと、そのままだと風邪引いちゃうと思うので、シャワーも良かったら」
「ああっ!あなたは何という女神なんだ。もう感謝してもしきれない」
わざとらしい感謝の表現に、私は苦笑しつつ、浴室がある洗面所を指差す。
「着替えは一応、ありますから」
「そうか、ありがとよ。じゃあ、遠慮なく借りてくる」
そう言って有栖川さんは洗面所へ消えていった。
まさかこんな時に元彼のジャージが役立つとは。私はタンスの中から元彼のお泊まり用のジャージとトランクスを引っ張り出し、脱衣所に有栖川さんが居ないことを確認してそっと中へ入る。
シャワーの音で有栖川さんの影が動くのを見える。扉の向こうには裸の有栖川さんが――と思うと胸がときめいた。欲求不満なのか、私は。
いやいや、と首を横に振り、洗濯機の蓋の上に無造作に置かれたコートとズボン、シャツ、下着を手に持つと、代わりにジャージとトランクスを置いておいた。
「乾かさないと、だよね。さすがに」
私はリビングに戻り、テレビを付けて明日の天気予報を確認すると、脱衣所に戻ってコート以外の洋服を洗濯機の中へ放り込む。
「あの感じじゃきっとご飯も食べてなさそうだし、何か作るかあ」
ここまで来ると話を聞くどころか、まず世話を焼きたくなってしまう。自分は買ってきたコンビニ弁当を食べることにして、有栖川さんには冷蔵庫の中のありもので野菜炒めを作ることにした。
台所で野菜と肉を炒めていると、有栖川さんが元彼のジャージを着て出てきた。
「あー、すげえ良い匂いがする」
お腹をさする仕草を見て、やっぱり、と思った。