第2章 Take me in your heart
「楽しくなかったらスタジオにまで来ないよ。今日だってガジュと踊ってて楽しかったし……アドバイスがしっかりしてたかと言ったらそれは別だけど」
早口に言葉を繋ぎ、乾いた笑いが零れ出る。
仙石さんは察しがいい。今も目をスっと細めて私を横目に見ている。観察されている。……こういう時の彼は苦手だ。
被さる重みを追い払おうと肩を落としてみたり、それとなく体を腕の中から抜けさせようと試みるが、ガッチリとした腕に捕まえられたまま動くことができない。私の言葉を疑っているのだろうな。
もう一つため息をついて、今度はこちらから仙石さんを見つめ返す。
真剣な目がピタリと吸い付く。色素の薄めな瞳が少し揺れた。
「……そういう、寂しそうな目ぇすんなよ」
顔を離して、スマホを持つ手と反対を私の頭にぽすんと乗せた。
「寂しそうになんてしてない」
「無自覚め」
「だぁって、してないもん!」
「自分で分かってないから無自覚って言うんだよ。分かんねぇで当たり前だろ!」
「なんで私のことを仙石さんが分かるんだよ!」
普段の言い合いに持っていけたかと思っていたが、不意に仙石さんが口を噤む。片手ですっぽりと覆われた私の頭を掴んだまま、腰をちょっと屈めて私の顔を覗く。
優しい目がこちらを見ていた。
「こんなに分かりやすくて、誰が見逃すかよ」
するりと頭から手が離れ、耳の後ろを通って首を撫でられる。ぞわりと身体中の毛が逆立つ。
「それでも、理由を教えて貰えなきゃそこまでだ」
パタパタと人の足音が近づいてくる。
ハッと現実に頭が戻ってくる。目の前の仙石さんから視線を逸らして、足元にあった着替えの入ったカバンを手に更衣室へと走った。
誰かとすれ違ったが誰かまでは確認できない。余裕がない。
開いていた入口に体を捩じ込むようにして入り、サッとカーテンを引いた。
ぎゅっとカーテンを握った外からガジュの声が聞こえ、それを抑えるしずくの声もする。行き違ったのはあの二人だったか。
きっと仙石さんは責められているに違いない。
まぁそれもいいかと呼吸を整え、靴を脱ぎ始めて気がついた。
「!? きよちゃ」
素早く口元を手で抑えられ、でかかった叫びを喉の奥へと嚥下する。
無人だと思っていたが、清ちゃんが出ようとカーテンを引いたところだったのだろうか……。