第2章 Take me in your heart
ちょうどスタッフルームへと向かう環ちゃんの後ろ姿を見かけたので、続こうかなと足を踏み出すよりも早く捕まった。
腕を掴むこの手は先程ガジュを叩いたものと一緒だ。
私の腕を掴む手から徐々に視線を上げていけば、当たり前のように仙石さんの顔がある。難しそうな表情で見下ろすので、踏み出そうとした足を戻して彼の手をそっと解いた。
「まだ喧嘩し足りないの?」
腕を組んでツンと顎を突き出せば、思わずといったふうに仙石さんは苦笑する。
「いや。……ほら、大会どうだったんだよ。写真撮ったんだろ?」
「うわー! その話かよー!」
休憩時に少し高校生たちとの間で話題になったが、仙石さんは遠目から眺めているだけだったので、今日は見逃してくれるのかもと思ったのが甘かったか。訊かれなかったことなどないのに、随分うっかりしていた。
デカい図体を丸めて私の肩に腕を回し、写真を見せろとしなだれかかってくる。
その重さに耐えきれず、よろよろと隅の床に置きっぱなしにしていたスマホを手に取った。
サラサラと指先で写真を呼び出し、仙石さんに手渡す。
受け取ったものの彼は離れる事なく、今度は私の背中から腕を回して、肩に顎を置き一枚ずつ写真を見ていく。一緒に写真を見る気のようだ。
自分の競技中の写真や映像を見るのは苦手だ。
捲られていく写真をぼうっと眺め、自分の表情が硬いことに目がいく。
ひらりと舞う綺麗な衣装の上で私の顔だけがどこか浮いているように見える。それは自分自身の事だから気になるだけなのだろう。結果として、実際にトロフィーは受賞できているのだから。
一位に至らなかったのはダンスの完成度であろう。
ため息をつくと、仙石さんの指がコツコツとスマホの画面を指先で叩く。傷が付いたら弁償してもらおう。
画面には例のトロフィーを持つパートナーと、隣でぎこちなく微笑む私が立っている。
「三位かよ」
「……三位だよ。仙石サマなら一位なんでしょうけど」
皮肉を飛ばしてやれば、露骨に嫌そうな顔を横からぐいっと近づけてくる。
練習後の汗をかいた肌がベタつく。
「お前、最近ダンス楽しいって思ってないだろ」
びくっと肩が揺れた。
仙石さんにも伝わったに違いない。
この距離で嫌なことを言うもんだ。
私は泳ぐ目を気取られまいと、口元を笑みの形に歪める。