第2章 Take me in your heart
この子は本当に、何も知らないのだろうか。
だとしたら、なぜいつもこんなに胸を突く言葉を投げてくるのだろう。
きゅっと縮む胸の痛みを感じながら、私の方が年上なのにという罪悪感も感じる。もたれかかっていい相手ではない。どちらかといえば仙石さんの方が支える役目だろう。……相談したい訳ではないが。
じぃっと覗き込んでくる清ちゃんは、どんな思いで言っているのだろう。
引き込まれそうになった私を止めるように、カーテンの外から清ちゃんを呼ぶタタラくんの声。遅くなっていたので心配になって呼びに来たのだろう。
彼の声に答える清ちゃんの顔が上を向く。
同時に、呪縛から解き放たれたように私の体も動いた。
「じゃあ、俺出るから。練習なら俺も付き合うし、家に来いよ」
「ホント? それは凄く嬉しい」
「その時に、もっと話きかせてよ」
「だー、キビシーなー」
また大会の話かよー、と口をとがらせて抗議するが、どこ吹く風の清ちゃんは楽しそうに微笑むだけ。
それじゃあ、と手を上げて少しカーテンを揺らして出て行った。
一人残った更衣室で、清ちゃんの笑顔を思い浮かべながら服を脱ぐ。
お世辞でも、私のダンスを「下手ではない」と言い切ってくれたことが嬉しい。それでも、自分に自信が持てるようなダンスができるとは考えられなくなっている。それが競技の勝敗を分ける理由でもある。
それでも私はダンスをやめようとも、嫌いだとも思えない。
だいすきだから、困っている。
手早く服を着替えつつ、仙石さんからスマホを取り返す手立てを考えて、何度も頭の中でシュミレーションを繰り返す。
そのどれもが身長差で大敗を喫するので、つい苦い顔になってしまう。
だがまあ、また何か言い合いになってしまった時はすぐに千鶴ちゃんに言いつけてやろうと決め、乱暴に靴を履いた。