第2章 それからそれから
は閉じていた瞼を上げた。
うっかり眠ってしまっていたようだ。大口を開け欠伸をし、両腕を上げて伸びをする。チラリと車に搭載されている時計を見て、それほど時間が経っていないことを知った。
キリリと脇腹が痛む。顔を顰めてそっと手を当てた。
阿幾の義母に刺された腹は、腰を捻るように阿幾を引いたおかげで脇腹から背中の肉の間を縫うように通り抜けたらしく、致命傷までには至らなかった。とは言ったものの、しばらくは安静にとの通達があった。
が、今こうしては病院を抜け出しているわけだが……。
しかし彼女自身は車の運転などできるわけがない。免許証すら持っていないのだ。
では、この車の持ち主は誰なのか。
「おう、運転してる奴の隣でよく寝れるな」
「眠たきゃ寝るよ」
窓枠に肘を付いて頬杖を付き、勾司朗の言葉にフンと鼻を鳴らす。
窓の外に流れる景色が木々ばかりになってくると、嫌でも村に帰ってきたのだなという気持ちにさせられる。
彼女がいたのは村からほど近い……とは言うが、鬱蒼とした森の奥の村を出てしばらくは車を走らせるわけだが、そこそこの大きさの病院である。
そこまで車を走らせてくれたのが、あの空張家の大黒柱というのだから驚きだ。野次馬以上に面倒な人間だと思っていただったが、この一件は礼を言わなければなるまい。今後も会うかどうかは別として。
とりあえず胸中では合掌しておくことにする。
その病院で治療を受けた後、目を覚ました彼女に待っていたのはリハビリと軟禁状態の毎日だった。
鈍るほど体を休めていたわけではないが、傷ついた体を少しずつ慣らし、食事ができないところから少しずつ固形物を増やし、そこそこ普段の生活に支障がなくなってきたところで彼女は脱走したのだ。
そこらの人間よりかは隠れることも逃げることも上手くできるので、隻であったことも無駄ではなかったというところだろうか。
しかし、徒歩で村へ帰るとなるとさすがに案山子がほしくなる。
ない髭を撫でるかのように指先で顎をさすり、悩んだ末に脇道や自販機の下を覗き込むことに。一円玉をかき集め、思いがけない十円玉に出会うと思わず声が出た。
通報されなかったことに感謝である。