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満天の星が、君の夜を照らすから

第1章 その後のはなし


「阿幾」

違う。

違う。

これはの声ではない。
それは彼女自信が良くわかっていた。まだ発していない名前が呼ばれる訳はない。

体が動いていた。
同時に頭が理解する。
軸がブレている阿幾を引っ張るのは簡単だった。少し手を引くだけで楽に足元へと崩れる。
腰に感じた違和感と熱。

地面に叩きつけられる。
次いで、激しい痛みが襲った。

「!」

阿幾の声。

「あ……違う……篤史が、あの子が寂しいって言うから……!なんでっ、なんでお前が……」

動揺する声はあの女の声だ。
なんで、とはコチラのセリフだよとは苦々しい顔をする。

脇腹から斜めに背中の方へと貫かれた感覚がやっと届いた。

騒がしい阿幾の義母の声が疎ましい。
次第に見えなくなる目の代わりに耳がよくなっていっているみたいだ。

「……なんで……」

自分もいくつも怪我をしているというのに、他人のことを心配する阿幾がおかしい。そんな子だったかね、と笑ってみせたくなるが上手く笑顔が作れている気がしない。

綺麗だと思っていた髪がぼんやりと輪郭が崩れていく。
覆いかぶさって、上半身を抱き抱えられ、弱々しく揺さぶられているのが辛うじてわかる。視界がゆらゆらと揺れた。

そんなに呼ばれなくとも、届いている。
そんなに揺さぶらなくとも、感じている。
けれど、その全てが滲むように薄れていく。

は重たい腕をどうにか上げて、阿幾の頬へと当てた。
冷たくて気持ちがいい。

重ねられるように彼の手が被さってくる。かさつく手は小さな傷だらけなのが感触だけでわかるほど。普段からクールな彼とは思えないほど混乱しているようで、名前を呼んでは安否を確認する言葉を投げかけている。

温かな雫が手の平を濡らしてぱたりぱたりと落ちてくるような気がしたが、気のせいかもしれない。
とにかく、動かなくなる前に伝えなければならないことがある。

急速に視界がせばまっていく恐怖に怯えながらも、は手に残る阿幾の感触を思い出しながらなんとか声を絞り出す。

「阿幾」

「っ……」

「きょーへ、と……なかなおり、してね」

暗転。

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