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満天の星が、君の夜を照らすから

第2章 それからそれから


「アレがなければ、もっと普通の村だったのかな……」

不意について出た言葉に、彼女自信が一番驚いた。もしもの話などしても意味が無いのは自分が一番わかっているはずなのに、思わず声に出てしまった。
勾司朗も珍しいものを見るようにを横目に映す。

数瞬の沈黙の後、太い声がその場の空気を震わせた。

「でも好きだったんだろ」

「そうだよ、私のだいすきな子だったんだから……」

目を閉じ、在りし日の月夜史との日々を思い返す。
一緒にいれば、好きではなかった村での毎日も楽しく感じられた。距離を遠く感じていた隻たちとも気軽に話せるようになり、友人と呼べる人達ができた。自分の居場所ができたような気持ちになった。
良い記憶ばかりではないが、かけがえのない思い出だ。

月夜史のことを考えると頬が緩む。
同時に、美しい銀色が視界にちらついた。

「着いたぞ」

声がしてゆっくりと目を開けると、幾分手直しされた村の入口が目に入った。
静かに停車した車を待つことなくシートベルトを外して外へと飛び出す。そのまま一直線に座敷牢のある村の隅へと向かおうとした彼女の後ろ姿に、勾司朗が声を投げつける。

「そういや、牢の場所変わったんだよ」

聞き捨てならないセリフには足を止めて振り返る。
ニヤニヤとだらしない表情で運転席から身を乗り出す姿に、嫌な予感がした。

「……どういうこと」

「例の戦闘騒ぎで壊れちまってな。昔の場所にはないってことだよ」

「で、今はどこにあるの」

眉間にシワを寄せて問い詰めると、彼は面白そうに笑う。

「お社の離れにある」

「……さいあく」

口を尖らせて悪態をつけば、勾司朗は我慢できずに大口を開けて大爆笑。全部知っていて、車であの話をしたのであれば物凄く性格が悪すぎる。しかし、前からこういう奴だったかとはため息をついた。

とりあえず村に着けば目的の大半は達成したも同然であるし、お社の近くへ行くからといって必ず挨拶をしなければならないという決まりはない。送ってもらったことはありがたいが、勾司朗の顔を立てる理由もない。
方向転換してお社のあった方へとつま先を向けた彼女に、再度声が投げかけられる。

「」

「……何」

「おかえり」

ざあっと木々が鳴く。
照れ臭さを隠すように、は首をかいた。

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