第2章 事件の収束
身近な人間への対応もバッチリという父親の本当の姿はいったいどちらなのか。彼と寝食を共にする家人たちは「優しい人」だなどと口が裂けても言えないだろう。
振動の少ない車に揺られ、ぼうっと窓の外の景色を見ているうちに学校近辺に到着した。校門前だと周りの目が気になるからと遠慮したのだ。
父親には勿体ないくらいの気のいい運転手は、を降ろすと一礼して再び車を発進させた。
車が去っていくのを見送り、さてと振り向いた時、風になびく金色が目に入った。
ジュウだ。
輝く美しい頭髪は、同じ格好をしている学生たちに混じると余計に目立って見えた。
声をかけようと駆け出したところで、ふと隣にいる小柄な女の子の存在に気がつく。長い髪が印象的で、背筋がピンと伸び歩く姿も綺麗である。
最近よくジュウと行動を共にしている堕花雨。色んな意味で有名だ。
特進クラスの生徒が不良少年と一緒の時間を過ごしているということが既に物珍しい。噂は小さい学校の中で急速に広まり、もちろんだって知っている。
だから、ジュウには近づき難くなったのだ。
一年の時はそんなこともなかったのに。
自分の席を取られてしまったような、そもそもそんな特等席など元からなかったと思わされたような、少し寂しい気持ちになる。
緩やかに減速して上げかけていた手を降ろす。
視線をそっと二人から外して、とぼとぼと学校への道のりを行く。
「」
呼ばれ、顔を上げると、前からジュウが小走りに近づいてくる。
何かの折に気がついたのだろうか、雨をその場に残したままの前まで来ると義眼である左目を覗き込む。
「いつ見ても本物みたいだな」
不意に顔が近づき、思わず肩が強ばる。
「動かないから良く見てると変な感じがするって、よく言われるけど」
「言われてみれば色も少し違うか……。まぁでも綺麗だよ」
「……ありがとう」
他意はないとわかってはいても直球な彼の言葉には参る。
視線から逃れるように左目を手で隠し「あんまり見ないで」と俯けば、「悪い」とそっと距離をとった。
流れるようにジュウはの右側に寄り、エスコートするようにそのまま前を歩き始めた。行く先が一緒なので後を着いていく形になるのだが、雨は嫌がらないだろうか……などと無駄な不安を覚えながらもジュウの背中を追う。