第2章 事件の収束
「さん、でしたね」
ふと足が止まり、いつの間にか近くにいた雨が小さく頭を下げた。
「お久しぶりです」
「あ、うん、久しぶり。お見舞い以来だよね、あの時はありがとう」
「いえ、ジュウ様のご友人とあればいつでもお力をお貸しします」
長い前髪で目元は隠れ、微笑みも浮かべないのでどう判断したものかなと思いつつ、とりあえず笑顔を返す。
乱暴に金色の髪を掻き回してジュウが間に割り込んだ。
「歩きながら話そう。立ち止まってたら余計に目立つ」
登校時間ということもあり周りは学生服でいっぱいだ。
ただでさえ目立つ見た目をした学生が二人と、事件の被害者が一人。注目するなと声を上げる方が難しい。
「申し訳ありません」と雨が謝る。
礼儀正しいを通り越して、もはや従者のように付き添う彼女だが、あながち間違いでもないそうだ。前世からの絆で二人は繋がっているらしい。
過去、大真面目に説明する彼女を前に面食らっていたが、この説明を真正面から受け止められる者がいるだろうか。
「その後、体の調子はいかがですか」
ジュウの後ろを歩くに合わせるように隣を行く雨が尋ねる。
ここまで気にかけてくれるとは思わず、慌てて笑顔を取り繕い頷いた。
「とりあえずは目立ったことはないかな。慣れてくれば片目でも疲れなくなるってきいたけど、まだ遠いと思う。でも生活できないわけじゃないから」
「しかし、不便でもあると」
「……まぁ、ね。今まで両方の目で見て生きてきたのに、いきなり片方の世界がなくなったも同然だし……」
「私には計り知れないこともあるでしょう」
「……でも、それ以上に両目を失った子たちはつらいだろうね」
サッと周囲の音が消えた。
当たり前のように見えていた世界が一瞬にして目の前から消えてしまう恐怖。幼い子どもたちはハッキリと理解できていないかもしれないが、その絶望は想像を絶するだろう。片側の世界を失くしたでさえ暗澹たる気持ちだったのだ。
更に言えば、メディアへの露出もそれに加担した。
「もういいだろ」
風が吹くように強い声が割って入る。
知らず知らずのうちに奥歯を強くかみ締めていたことに気がついた。