第1章 はじまり
自分が襲われるわけはないとタカをくくっていたのも事実ではあるが、唐突に突きつけられた現実にの頭はついていくことを拒否した。諦めた、という方が正しいかもしれない。
とはいえ、ジュウの言うことは本当なのだろう。それならば、左側が上手く見えないことにも理由が着く。
だが、左側だけというのはいったいどういったことなのだろうか。片目だけ奪われていた話は聞いていない。自身、情報ツウではないがニュースは毎朝テレビに映っているので嫌でも目に入る。
えぐり魔の名前はよく聞くが、自分は関係ないといつの間にかシャットアウトしていたのだろうか……。
ぐるぐると考え事をしていると、次第に頭が少しばかりクリアになってくる。事件の時なのか、目の処置をキチンと施した時のものなのか分からない麻酔は未だに健在だが。
自分が狙われた疑問と同時に、一つの思いが湧き上がってきた。
家のことだ。
今は仕事に追われていて両親は出て来れないのかもしれないが、目を覚ました娘の事を聞けば喜び飛んでくるに違いない。
その喜びのベクトルが何に向かっているかは考えたくもない。
ジュウに負けず劣らず眉の間に深い渓谷を刻みつけたの表情に、何を思ったかジュウは彼女のお腹に乗った手を取った。
大きく包み込む手に思わずドキリと胸を弾ませ、緩やかにジュウを見上げると、真剣な目とぶつかった。
少しばかり潤んでいるように見える瞳に、は困惑しつつも、これほどまでに感情を吐露してくれるジュウに心惹かれる。言葉は少ないが、自分に対する一つ一つの動作が暖かく、柔らかい。
……名前のせいだろうか。
そうなると柔沢家は家人全員彼のようなのだろうかと、くだらないことを考え始めた彼女にジュウは言う。
「お前から少しでも光を奪った奴を、俺は許さない」
「……半分見えるよ」
「少しでも」
強調するように繰り返し、ぎゅっと力強く握られたかと思えばそっと手を離して立ち上がる。そのまま振り返らずに病室を出ていく後ろ姿を見送りながら、も何も言うことができなかった。
ちらりと見えた横顔が勇ましく、辛そうだった。
そんな彼にかけられる言葉を、は手にしていなかった。