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緑の黒髪、黄なる涙

第1章 はじまり


最初に見えたのは、白い天井だった。

ゆっくりと瞬きを繰り返してぼうっと綺麗な天井を見上げていた。
薬品と老人独特の皮脂の匂いが肺を埋める。嫌いではない匂いだ。
麻痺したように感覚が薄いのは寝起きだからか……。ぼんやりとした頭で、一応ここは病院であることを悟り、そこで自分が寝ているということは患者であることまで推測できた。
どうやら頭は正常に動くようだ。

そこまで考えて、急に疲れがでたように思考力が低下する。
いきなりの事で体が驚いたのだろうか。まさか、数年後のカラダではあるまいなと、昏睡状態だったのではと疑い始めたところで、聞き慣れた声が耳を掠めた。

「目が覚めたのか!?」

ガバッと起き上がった気配。ベッドに上半身を預けて寝ていたようだ。視界が悪いようで、左側が嫌に見えずらい。
体を少し横に傾けて、声の主を捉えた。

「ジュウ……」

掠れた声が出る。
水分が足りないようで、喉の奥が張り付いてしまったように動かない。調子を整えるように喉を鳴らそうとしてみたが上手くいかなかったので諦めた。

名前を呼ばれた明るい髪色の彼は、泣きそうな笑顔を見せて

「……」

同じく名前を呼んだ。

「ごめん……私なんでこんなところにいるのか、わかってなくて……」

「ああ、わかってる。たぶん麻酔がまだ効いてるんだろ」

「……事故?」

「……いや……」

歯切れ悪く口篭る。
いや、ということは事故ではないのか。

起き上がろうかと腕を動かしてみようとするが、上手く力が入れられず、ふわりと上がった腕をとりあえず自分のお腹の上に着地させた。
それを見ていたジュウは、いつも不機嫌そうに寄せられている眉間のシワを更に深くさせ、ゆっくりと口を開く。

「お前のことだから、理由が分からないと後でうるさいだろうから言っとくぞ」

「……うん」

よくわかってるな、と軽口を叩くこともできずに頷く。
上手く頷けたかどうかはわからない。

「えぐり魔にやられた」

ぐぅっとベッドが軋んだ。ジュウが両手を組んでベッドに強く押し付けたせいで、もジュウの方へと重力がかかった。

えぐり魔。
巷を騒がせている事件の一つで、殺しはしないものの対象者の目だけを奪うという残忍極まりない事件である。
しかし、被害者の傾向は幼い子どもであったはず……。
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