第1章 honey.1
こんなに綺麗な人なら、母親だと言われてもいいかなと思ってしまうぐらいだ。
「真澄、晴美さんはやらんからな!」
誰が狙うか!
口には出さず、晴美さんの肩を抱きながら威嚇してくる親父を睨み返す。
晴美さんはほんのりと頬を赤らめて親父の腕の中に収まっていた。
「話が遅くなってごめんなさいね。
でも、歩も貴方を気に入ったみたいだし良かったわ」
口元に手を当てて微笑む晴美さんの顔からは幸せが滲み出ている。
二人が幸せならいいのかと思った時だった。
「じゃあ、二人も兄妹になったことだし!
行こうか晴美さん」
「はい。賢治(けんじ)さん」
穏やかに笑い合った二人は側にあった大きなスーツケースを手に持って…。
リビングを出て行きました、と。
……。
「は?おい親父っ!!」
玄関に向かう二人を慌てて追いかけると、玄関の扉を開けたまま親父が振り返った。
「俺達は新婚旅行に行ってくるから、後は頼んだぞ!」
「いってらっしゃーい!」
は、はああああああっ?!
にこやかに送り出す歩ちゃんとは正反対に、俺は言葉にならない叫び声を上げた。