第1章 honey.1
「今回だけ…だからな」
それにこんな顔で泣かれたら、たまったもんじゃない。
ガシガシと頭をかいた後、歩の頭にぽんっと手を置くと彼は擦りすぎて赤くなった瞳で俺を見た。
頬に残る涙。
濡れたまつ毛が見上げる瞳とは裏腹に俯いている。
俺が許してやるのも…今回だけ、なんだからな。
むすっとしたままで歩をあやすように頭をなでてやる。
次第に俺の言葉を理解した歩は屈託のない笑みを浮かべた。
「ありがとう、お兄ちゃん!!」
「うおっ?!」
いきなり飛びつかれ、不意をつかれた俺は歩と共にソファーに座るようにして倒れこんでしまった。
首元に抱きついたままの歩。
茶色の髪がふわふわと俺の頬を流れる。
……甘い。
歩から漂ってくる匂い。