第15章 【特別編】甘え日和。
「ねねっ、真澄の一口ちょーだいっ」
語尾にハートマークが付きそうなほどの笑顔と甘ったるい声で歩が俺に向かって口を開く。
真澄呼びになったりお兄ちゃん呼びになったりと忙しいやつだな…と心の中で呆れながら、俺は口を開けて待っている歩にクレープを差し出した。
目を閉じた歩がぱくんっと差し出したそれにかぶり付く。
「えへへっ、ありがとう」
「…付いてる」
嬉しそうに微笑む歩の口元に付いている生クリームを指で拭ってペロリと舐めると、周りの空気がざわっと騒がしくなった。
何かあったのか…?
キョロっと辺りを見渡した俺に向かって、歩は口元に人差し指を当ててしーっと静かにするように促してくる。
「…?」
意味がわからない俺に、人差し指を立てたままウインクをした歩はそのまままたクレープを食べ始めた。