第1章 honey.1
案の定、そこから入ってきたのはまだ完全に眠りから覚めていない歩だった。
「…ん、おはよ。お兄ちゃん」
「………」
クローゼットから引っ張りだしたのか歩は俺のシャツを着ていた。
華奢な体には俺のシャツは大きいらしくダボッとしている。
手が見えてない袖で目を擦る。
半開きの瞳に長い髪の毛。
やっぱり女にしか見えねぇ。
じっとその様子を眺めていたが、俺は昨日の過ちを許した訳じゃない。
朝の挨拶も返さずにふいっと視線をテレビに戻すと、それまで寝ぼけた様子だった歩が目を見張った。
「……怒ってる?」
当たり前だ。
好きでもないやつ、しかも男にヤられて怒らないやつなんかいない。
それでも口を開かない俺を見て、歩はトコトコとこちらに近づいてきた。