第9章 honey.9
「…下の名前で、呼ばないで、下さい」
一言づつ区切って言葉の意味が分かるように発言すると、面を食らったように生物教師は少し目を見開いた。
「ごめんね?…真澄くん」
こいつ…っ!
……食えないやつ。
ちっと舌打ちをしてからどうにか苛立ちを抑え、俺はそれ以上言い返すこと無く顔を背けた。
女子生徒が私も下の名前で呼んで下さいとそれぞれが口走っているが、それは生物教師の制止の声でぷつりと途切れた。
「じゃあ今日は前の授業の続きからね。それでは教科書の126ページを開いてー…」
教室全体に響き渡る透き通った生物教師の声。
それまでうるさかった女子生徒達も口を閉じ、教師の声に耳を傾けている。
早く終わんねーかな…。
そんな事を考えながら教科書を開くこと無く、俺は机に突っ伏して視界を遮った。