第9章 honey.9
教科書の入ったカバンが一瞬肩に食い込んで、すぐにその重みは消えた。
「病み上がりの人に重いものは持たせられませーん」
二人分のカバンを軽々と持つ彰が俺を見てニヤリと笑う。
バカにされているようで腹が立ったが、何も言わずに俺は扉を開けて外に出た。
数日ぶりに吸う外の空気は、治ったのどを冷たく刺激する。
「まっすんマフラーちゃんと巻いてー」
お前は母親か。
首元に巻かれたマフラーを引き上げて俺の口元を隠す彰の指先が唇を掠った。
「……っん…」
「まっすん?」
……?
一瞬ピリッと走った刺激。
その意味が分からないまま心の中で首を傾げる。
目の前の彰もちょっと首を傾げたが特に気にすることも無く、俺達は歩みを進めた。