第8章 honey.8
彰の言葉に俺は下げていた視線をはっとあげた。
「ねぇ、まっすん。…風邪で弱ってる?」
指先を絡めていない方の手で、彰が俺の頬をするりと撫で上げる。
「そんな事言われると勘違いしちゃうよ?」
いいの?とニヒルに笑った彰の表情に、ごくりと喉を鳴らして俺は唾液を飲み込んだ。
「…我慢出来なくなっちゃうと困るのはまっすんだよ…?」
困る…?
つ、となぞった彰の指が俺の顎をクイッと持ち上げる。
「…あき、…」
そのまま光を宿さない彰の顔が徐々に近づいて来て、俺は後に続く言葉を失った。
………コツン。
「ん、熱下がったね…」
額と額が触れ合う。
吐息が触れる。
「ねえ…まっすん…」
言葉を失った俺はまるで…。
「…俺はね…」
蜘蛛の糸に絡め取られた蝶のように…。
「ーーーまっすん以外に優しくなんてしないよ…」
身動き一つ取れないでいた…。