第8章 honey.8
そこを触っても痛みや痒みは伝わらない。
虫さされではないようだが、どこかにぶつけた記憶もない。
「…?」
首を傾げて考えたが、原因が分からなかった俺はそのうち考える事をやめた。
もしかしたら、学校で倒れた時にぶつけたのかもしれない。
とりあえず痛みはないので、そっとして置くことにした。
「……はぁ…」
湯船に使った俺の体からため息が漏れる。
温かいお湯を掬っては下に落とす。
指先の隙間から滑り落ちる透明なお湯が流れていく様を眺めながら、俺はもう一度小さなため息を吐いた。
彰の部屋に厄介になってから、どれだけの時間が経ったのだろうか。
一人になるとぼんやりと考えてしまう事がある。
いつまで俺はこうして逃げているのだろうか…と。
「…熱にやられたかな…」
弱々しい考えが次々と浮かび上がり、俺は体がのぼせてしまう前に湯船から上がったのだった。