第8章 honey.8
ほかほかと温かな湯気が体から出ている。
肩にタオルをかけた状態でリビングに入ると、キッチンで何かを作っていた彰がくるりとこちらを振り返った。
「あっ、おかえりまっすん!お腹すいてる?」
「…まあ…」
キラキラと笑顔を輝かせる彰に、俺の体が無意識に半歩下がる。
「うどんがもうすぐ出来るから、それまで待ってねー」
かぽっと鍋に蓋をかぶせた彰は、火を弱火にするとエプロンを外した。
「おいでまっすん。そのままだと治るものも治らないよ?」
置いてあったドライヤーを手に取った彰が、ソファーに座り手招きをする。
髪を乾かすのがめんどくさかった俺はその好意に甘え、彰の足元にちょこんと座った。
……っつか。
「お前も学校休んだのか?」
「え、だってまっすん一人を置いてけないじゃない?」
肩にかけていたタオルでぽんぽんと叩くように優しく髪の水分を吸い取って行く彰。
「……悪かったな…」
「全然いいよ。気にしないで」
タオル越しに彰が頭を撫でる。
人が弱っている時に頭を撫でるのは彰の悪い癖なのだろうか。
もし俺が女子だったら、間違いなく勘違いするだろうな…。
そんな事を思いながら、俺は心地いいドライヤーの音にそっと目を閉じた。