第8章 honey.8
「じゃ、そろそろ行こうか」
あくびを噛み殺しながら歩き出した彰の後を追って玄関に向かう。
靴を履き終えて振り返れば、玄関先にちょこんと座ったクロがにゃあと鳴いた。
“いってらっしゃい”
俺の耳…いや、脳内変換でそう聞こえた気がした俺は、いってきますと返して玄関の扉を開けた。
空は青々として気持ちがいい天気。
ただ…マンションの間から吹いてくる風は冷たく、マフラーに顔を埋めて足を進める。
「しっかし寒いねー」
隣でブルブルと震えながら、ポケットに手を突っ込む彰。
お前はまだ手袋してるだけましだろ。
はーっと息を吐いて手を温めるものの、その熱はすぐに空から吹く風によって奪われてしまう。
「まっすん、しょうがないから暖めてあげよう」
ずいっと顔を近づけてきた彰は、ドヤ顔をすると俺の手をきゅっと握ってそのままコートのポケットに突っ込んだ。