第7章 honey.7
気持ちを切り替えた俺は、まとめた荷物を持って俯いたまま動かない歩の隣をすり抜ける。
まるでそこには誰もいないように。
いや、そこに誰もいないと思って。
「…………だ」
扉を開けて出て行く前。
微かに聞こえた歩の声。
立ち止まった俺は振り向く事はせず、耳だけを傾け言葉を待つ。
「真澄も…俺から離れていくんだ…」
………“も”?
その言葉に少なくとも違和感を感じた俺は、ゆっくりと背後を振り向く。
そこにはいつの間にか立ち上がった歩が笑みを浮かべて立っていた。
その笑みは人に恐怖を与える物では無く、何故だか美しいと思ってしまうくらいで。
儚くて繊細で…彫刻品の様な。
微かに感じる作り物の怖さ。
「………」
何も言わずに俺の隣をすり抜けて、自分の部屋へと戻って行った歩の後ろ姿から目が離せなかった。