第6章 honey.6
「……ねぇ、まっすん」
ひとしきり笑った彰は息を整えると向かいのイスに腰を下ろして頬杖をついた。
そっぽを向いたままの俺は彰を視界に入れないようにして、もぐもぐと口を動かす。
「せっかくだから一緒に子猫の首輪とか買いにいかない?」
「………」
彰の言葉にちら、と床に視線を落とす。
ガツガツとキャットフードを頬張る子猫の首には、主人が居ると周りに示すための首輪がない。
……首輪、か。
そっと自分の首を手で触る。
人間の俺にはそこに首輪がある訳はないけど、俺の首にはとっくに歩の首輪がはめられているような…そんな気がした。
従順な犬。
気まぐれな猫。
歩は…野良猫みたいにどこにも縛られない、気まぐれな…。
「まっすん…?」
考えにふけっていた俺ははっと顔を上げ、首を傾げる彰に何でもないと呟いた。
俺の首にはもう、見えない首輪が歩の手によって食い込むように巻きつけられていることを知らないままー…。
【END】