第5章 honey.5
「誰もいないと聞いてたんだが…サボりかな?」
さらりと流れる黒髪に左目にある泣きボクロ。
にっこりと笑みを浮かべる口元を下がると、シャツの上のボタンが一つ外され、大人のフェロモンを醸し出している。
ネクタイも少し緩んでいるが、何故かだらしなさを感じさせないのは顔が整っているからだろうか。
「……すいませんでした」
生物教室の鍵を持っているということはこの学校の関係者だろう。
そう考えた俺は口先だけの謝罪を述べて教室を出て行こうと、相手の脇をすり抜ける。
ピトッ。
「……?」
背後から冷たいものが頬に当てられ、足を止めてから少し顔を傾ける。
「これ。…さっき激しい運動してたから喉渇いたでしょ?」
「っ、!」
爽やかな笑顔とは裏腹な言葉。
こいつ、さっきの聞いてたのか?
動揺を相手に悟られないようにしながら、缶ジュースを受け取る。
そのまま相手を一瞥してから、俺は今度こそ生物教室を後にした。