第5章 honey.5
授業を終えた俺は次の授業が始まる合図を聞きながら、指定された生物教室へと足を運んでいた。
教室の中にはすでに俺を待っていた女子生徒が一人、机の上に座っていた。
「遅いよぉ真澄〜」
語尾を長く伸ばした男に媚びるような声。
「ん…わり」
化学薬品の匂いのする教室に足を踏み入れると後ろ手で扉を閉めて鍵をかける。
生物教室はこうしてよく男女の逢い引きの場として使われることが多い。
俺も何度かこの教室で誰かがヤりあってるのを目撃したことがある。
ふと香水の匂いを近くに感じ、下に落としていた目線を上げると目の前には名前も忘れた女の顔。
「ね…真澄…」
……うるさい。
そんな声で俺を呼ぶな。
「………」
囁くように俺を呼んだ女はそのまま唇を重ねてきた。
リップグロスが重なった唇から俺の唇に移ってくる。
歩が来る前には日常茶飯事だったこの行為。
「んっ…ん…」
誘うように声を漏らしながら俺の髪を指先で梳く。
この感触も…。
声も…。
いつから不快な物になった?