第5章 はじまり
「よし、雪華がねむるまで
話しをしよう」
父上との稽古の話、好きな遊び、
嫌いな食べ物の話、
時々童歌を一緒に歌った。
雪華の笑った顔は
大層愛らしく、俺もつられて笑う。
なぜこんなにも胸が高鳴るのか、
その時はまだわからなかった。
しばらくすると、「すぅ…すぅ…」と
雪華の静かな寝息が聞こえてきた。
母上がいつもして下さるように、
雪華の頭を優しく撫でる。
握られた右手は、真冬だというのに
ポカポカと暖かく、ひだまりのようだった。
「…!…郎!杏寿郎!」
何度目かの名前を呼ばれた時、
やっと気がついた。
「どうしたの?こんなところで」
雪華が心配そうな顔で近づいてくる。
一歩近づくごとに、
湯上がりの髪から石鹸の爽やかな香りが
ふわり、と鼻に届く。
胸の奥底が燃えるように熱く感じた。
…だめだ、今日の俺はどうかしている
変な気を起こすなよ、と自分に言い聞かせてから
返事をした。