第5章 はじまり
「どうしたんだ、どこか痛むのか?」
俺の声に気づいて、顔を上げると
水晶玉のような涙がポロポロと
大きな瞳からこぼれ落ちる
美しい、と思わずには居られなかった。
「…だれ?」
「おれは杏寿郎だ。きみは?」
「…雪華」
「雪華か。どこか痛むのか?
ははうえを呼んでこよう」
そう言って立ち上がると、
袴の裾を引っ張られた。
「杏寿郎…いかないで」
弱々しく震える手を退けてまで
母上を呼びに行く気にはなれなかった。
「おれはどこにもいかない。
ずっと、きみのそばにいよう」
気がつくと雪華の小さな手を
ぎゅっと握っていた。
それはもう、ほとんど無意識のうちだった。
俺も隣に横になり、
雪華と目線を合わせる。
「雪華はあいらしいかおをしているな!
肌も髪も、白くうつくしい!」
「そ…そうかな」
頬を桃色に染め、布団で顔を隠す。
「む、なぜかくすのだ?
もっとよく見せてくれ」