第5章 はじまり
父上の腕の中で眠るその子は
睫毛まで真っ白で、
瞳はどんな色なんだろう
どんな声なんだろう
もっと、もっと、知りたいと思った。
「杏寿郎、この子は風邪をひいている。
治るまで近づくな。お前にうつってはいけない」
「いいえ!ちちうえ!杏寿郎は
ずっとこの子の側にいたいです!」
「何言ってんだ、静かにしろ」
首根っこを掴まれて
乱暴に廊下へ放り出された。
「ちちうえ〜!!」
襖に手をかけるが、開かない。
何故あの子のことがこんなにも気になるのか
その時はまだ分からなかった。
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母上があの子の看病をすることになり、
俺は父上といつものように
組み手の稽古をしていた。
「少し休憩だ」
父上が自室に戻ったのを見計らって
こっそりあの子のいる座敷へ近づく。
「…ひっく、…ぐす…」
中から、すすり泣く声が聞こえた。
そっと襖の引手を触ってみる。
今度は開きそうだ。