第5章 はじまり
「瑠火、…………か?」
「はい、…………です」
普段は使っていない隣の座敷から
父上と母上の声がする。
うっすらと目を開けると、
障子を通してわずかに明かりが入ってきていた。
まだ夜は明けきっていない。
——カタン、
「ちちうえ、おかえりなさいませ…」
隣の座敷へ続く襖を開けると、
父上が何やら白くて丸いものを抱いておられた。
「あぁ、起こしてしまったか」
意識がはっきりしないまま近づいていく。
「…雪だるま、ですか?」
「よく見てみろ」
父上に抱かれたそれに顔を近づけた。
ほんの少しの光をも反射するほどの、
白く透き通った肌。
絹糸のように繊細な髪が顔にかかっている。
薄桃色の唇が、雪原に狂い咲く桜のようだった。
「…とても美しい!
ちちうえ、この子は雪の精ですか?」
「人だ人。今日からうちで預かることにした」
人…?尊敬する父上の言葉ではあるが
にわかには信じ難かった。