第5章 はじまり
しかし、ただ単に
鬼の頸に刃をふるえば良いわけではない。
刀はいつでも剣士を試しているのだ。
己の心、己の技、己の体
全ての均衡が整ってこそ
刀は本来の力を発揮する。
「杏寿郎、
あなたもいずれは父上のような
立派な剣士にならねばなりません。
刀を振るう理由はなんなのか、
何のために鬼の頸を切るのか、
己の心を燃やすものは何なのか。
それを常に考えておきなさい。」
「はい!ははうえ!」
「…難しいことを言いましたね。
杏寿郎にも、大切な人ができれば
分かりますよ」
母上が俺の頭を優しく撫でる。
先ほどとは違い、
全てを包み込んでくれる
愛に満ちた瞳だった。
母の腕に抱かれ、満ち足りた気持ちのまま
俺は眠りについた。