第5章 はじまり
父上が玄関の戸を開けると、
チラチラと白い雪が舞っていた。
「……雪、か」
空を一瞥すると、
低く唸るような声で言いながら
家を出て行った。
「?」
「杏寿郎、そこは冷えます。
はやくおいでなさい」
「はい!ははうえ!」
俺は母上が大好きだった。
子どもならば誰しもがそうだろう。
たびたび体を崩しては
床にふせることもあったが、
それでも凛とした、芯の強さがある女性だった。
「ははうえ、白湯をよういしましょう」
「ありがとう。あなたは優しい子です」
とはいっても、
俺は父上が湯を沸かしてくれていたことを知っている。
湯飲みに入れて、持っていくだけなのだ。
母上が白湯を飲み終えると、
おいで、と手招きをした。
「今日は一緒に寝ましょう、杏寿郎」
「…!良いのですか!」
「ふふ、父上には秘密ですよ」
「男がいつまでも甘えるな!
母を守る男となれ!」
父上が稽古の時によく言っていた。
父上は厳しい。
褒められたことなど一度もない。