第5章 はじまり
(杏寿郎Side)
薄暗い廊下を、厠へ向かって進む。
いや、厠へ行きたいわけではない。
「俺は…何をしようとしていたんだ」
雪華を抱きしめていた腕に
まだ温もりが残っている。
真っ白な素肌に薄紅色の唇がとても艶やかで
己の中の欲が弾けてしまいそうだった。
秋の夜風とは反対に
自分の身体はまだ熱を持ったまま。
「心の乱れは未熟者の証。
俺はまだまだだな…」
幼い頃から
雪華を大事に想ってきた。
いや、
父上が雪華を連れ帰ってきた
あの日からずっと
俺は決めていたんだ。
どのようなことがあっても
俺の命に変えてでも
雪華を守ろう、と。
寒い寒い、冬の日だった。
「夜警に行ってくる」
「槇寿郎さん、お気をつけて」
「あぁ。杏寿郎、後は頼んだぞ」
「はい!ちちうえ!
ははうえは、おれがお守りします!」