第3章 鬼狩り
「…杏寿郎?」
「雪華さん、
僕の後ろに下がってください」
「う、うん…」
小さな千寿郎くんの背中が
微かに震えているのが分かった。
「兄上!兄上ですか!?」
千寿郎くんが一際大きな声を上げると
風も吹いていないのに
提灯の明かりがふっと消えた。
「「!?」」
黒より深い、闇だ。
急に光を奪われて、視覚が追いつかない。
なに?杏寿郎じゃないの?
熊…にしては小さいし
あれはやっぱり人影だと思ったんだけど…
「…千寿郎くん?」
握られた手にグッと力がはいる。
私より一回り小さな手だけど、
私より力強い手だった。
「雪華さん、
絶対に俺のそばを離れないで…」
まだ声変わりもしていない
千寿郎くんの声が、
低く、低く、耳に響く。
あの人影の正体が知りたくて
いくら目をこらしても何も見えない。
ゴクリ、と唾を飲み込むだけが聞こえた。